
普段も、災害時も、温泉水を活かした持続可能な水システム
「温泉のチカラで守るまち」小清水町のフェイズフリー給水システムプロジェクト
背景
小清水町の特徴と防災の課題
小清水町は、北海道東部のオホーツク海沿岸に位置し、豊かな自然環境と農業が特徴の地域です。特に温泉資源が豊富であり、町内の暖房設備や観光施設で活用されています。
2018年の**北海道胆振東部地震では、大規模な停電と断水が発生し、多くの避難所で水の確保が困難になりました。**この経験を踏まえ、小清水町では「普段の日も、災害の日も」機能するフェイズフリーなまちづくりを進めています。
ワタシノの役割とフェイズフリーな取り組み
この一環として、2023年に町役場併設の公共施設「ワタシノ」をオープンしました。ワタシノは、行政とNPOが連携して開発したフェイズフリー対応施設であり、全国的に注目を集め、多くの賞を受賞しています。
普段の日の機能
• 日用品の買い物、カフェ、ジム、病院、コインランドリーなど、住民が日常的に利用できる施設を提供。
• 温泉を利用した床暖房、親水スポットの設置など、地域資源を活かした環境整備を実施。
災害時の機能
• 一時避難所として機能し、発電機、温泉を利用した暖房設備、貯水タンクを活用。
• 食事やランドリーサービスの継続提供により、災害時の生活インフラを維持。
温泉資源の活用方針
ワタシノの防災機能をさらに強化するため、新たな水供給システムの導入が検討されました。
• 平常時は給水スポットや親水用水として地域住民が利用
• 断水時には飲料水や生活用水の水源として機能
当初、新規井戸の掘削も検討されましたが、ワタシノの敷地内にはすでに暖房用に使用されている60度の源泉温泉井戸があり、調査の結果、水質が良好で飲料水としての活用が可能であることが確認されました。
そのため、新たな井戸を掘るのではなく、町の貴重な資産である既存の温泉井戸を活用する方針で検討を進めています。
コンセプト
本プロジェクトの目的は、小清水町のワタシノにおいて、水道以外の新たな水供給システムを構築することです。
基本方針
• 町固有の資産である温泉資源を最大限に利活用
• 町内の温泉井戸を活用し、親水空間や給水所として、飲料水レベルの浄水も可能なシステムを構築
• 数百人規模の避難所対応が可能な浄水システム
• フェイズフリー設計により、
• 平常時は温泉水の活用拠点として親水・給水機能を提供
• 災害時は飲料水供給拠点として機能
• リモート監視・管理機能を備え、維持管理の負担を軽減
このシステムにより、小清水町の住民は普段から安全な水を利用しながら、災害時には迅速にライフラインを確保できる環境を目指しています。
開発プロセス
1. 企画・要件定義
• 町内の温泉資源を活用する方針の決定
• 必要な水量・水質基準の設定
• フェイズフリー運用を想定した機能要件の整理
2. システム設計
• 温泉水を飲料水レベルに浄水するプロセスの設計
• 給水スポット・親水空間の設備配置を計画
• IoTを活用した監視・管理システムの開発
3. モジュール構築
• 浄水フィルター、ポンプ、センサーを搭載
• 給水機能を備えた親水設備を開発
• データ収集・運用監視機能の実装
4. 実地試験
• ワタシノでの試験運用を実施
• 災害時のシミュレーションを実施し、浄水能力と給水対応力を評価
5. システム検証と改良
• 連続運転時の性能評価
• 遠隔管理機能の最適化
• フィードバックをもとに改良を進め、本格導入に向けた調整を実施
成果物
ワタシノに設置する温泉水を活用した浄水システム
• 温泉水を飲料水レベルに浄水するシステムを導入
• ワタシノ内に設置し、日常利用が可能な給水・親水スポットを整備
• 災害時には避難所の飲用水供給拠点として即時機能
• IoT監視機能を活用し、効率的な運用管理を実現
このシステムの導入により、小清水町では、普段の暮らしの中で地域資源を活かしながら、災害時の水の確保を万全にする防災インフラを構築しています。
フェイズフリー × 小清水町
• 日常生活に溶け込みながら、防災対策を強化
• 災害時にも特別な準備や運用負荷をかけずに即時利用が可能
• 地域の資源(温泉井戸)を有効活用し、持続可能なインフラを構築
このシステムの導入を通じて、小清水町は「普段の日も、災害の日も、ワタシノ居場所」というビジョンを具体化しています。
今後も、試験運用と実証実験を通じてシステムを最適化し、より良い防災インフラの実現に向けた取り組みを進めていく予定です。